糸が教えてくれること
date: 2024年11月28日author: h.namba

手紡ぎ糸を正藍染で染めるとき、

独特の課題に直面します。

糸の風合いが良いからこそ、

空気が抜けにくく、染めムラが出やすいのです。

さらに、糸同士が重なり合うと

意図せずに防染されてしまい、

思わぬところにムラが現れてしまうことも…。😭

最初はこのムラに悩ませることもありましたが、

ある日、元上司に相談したところ、こう言われました。

「織物になれば、多少のムラなんて問題ないわよ〜!」

その一言に救われました。

でも、今振り返ると、

あの一言には「少しのムラは問題ない」というだけではなく、

長い目で見て、熟練だからこそドシっと構えた上で、

私を育ててくれている思いが込められていたのだと思います。

何気ない言葉の中に、

経験に裏打ちされた

明るさとどっしりとした安心感がありました。

思えば、手紡ぎ糸自体も最初の頃は太さにムラがあって、

品質が低いと見られることが多いものです。

でも、上司から教わったのは逆の視点。

「そんなムラのある糸こそ、上達したら二度と紡げない特別なものだよ」

確かに、数をこなして技術が上がるほど、

糸は均一に整っていきます。

けれど、その過程で生まれた“ムラのある糸”には、

初心者だからこそ紡ぎ出せた

無垢な魅力が宿っています。

それは、後からでは決して再現できない唯一無二の個性かも知れません。

技術が未熟な時にしか見えない景色と、

技術を積み重ねた先で見える景色。

どちらも異なる美しさがあり、

それぞれが価値あるものだと思います。

ムラひとつをとっても、

私たちが見落としている大切なことを教えてくれる糸たち。

藍液の中でどうなってるんだろうと想像しながら、

今日も糸が語りかけてくれるような気がします。

南馬 久志
卒業後、約3年、染屋で丁稚奉公を行い、その後、益久染織研究所 企画室に在籍。故 前田雨城の色の文化史の運営に携わる。2020年 かぜつち模様染工舎として動き出し、今に至る。

糸染

「土の時代」から「風の時代」?


試織のための糸染


一覧トップへ