手紡ぎ糸を正藍染で染めるとき、
独特の課題に直面します。
糸の風合いが良いからこそ、
空気が抜けにくく、染めムラが出やすいのです。
さらに、糸同士が重なり合うと
意図せずに防染されてしまい、
思わぬところにムラが現れてしまうことも…。😭
最初はこのムラに悩ませることもありましたが、
ある日、元上司に相談したところ、こう言われました。
「織物になれば、多少のムラなんて問題ないわよ〜!」
その一言に救われました。
でも、今振り返ると、
あの一言には「少しのムラは問題ない」というだけではなく、
長い目で見て、熟練だからこそドシっと構えた上で、
私を育ててくれている思いが込められていたのだと思います。
何気ない言葉の中に、
経験に裏打ちされた
明るさとどっしりとした安心感がありました。
思えば、手紡ぎ糸自体も最初の頃は太さにムラがあって、
品質が低いと見られることが多いものです。
でも、上司から教わったのは逆の視点。
「そんなムラのある糸こそ、上達したら二度と紡げない特別なものだよ」
確かに、数をこなして技術が上がるほど、
糸は均一に整っていきます。
けれど、その過程で生まれた“ムラのある糸”には、
初心者だからこそ紡ぎ出せた
無垢な魅力が宿っています。
それは、後からでは決して再現できない唯一無二の個性かも知れません。
技術が未熟な時にしか見えない景色と、
技術を積み重ねた先で見える景色。
どちらも異なる美しさがあり、
それぞれが価値あるものだと思います。
ムラひとつをとっても、
私たちが見落としている大切なことを教えてくれる糸たち。
藍液の中でどうなってるんだろうと想像しながら、
今日も糸が語りかけてくれるような気がします。
「土の時代」から「風の時代」?
試織のための糸染