いま、私はひとつの宿の構想を温めていて、 それは単なる「泊まる場所」ではなく、 暮らしの実験場でもある宿です。
これまで私は、藍染を中心に、テキスタイルを「作品」として制作してきました。 けれど、染め上げた布は、完成した瞬間よりも、 実際の暮らしの中で使われ、洗われ、擦れ、 少しずつ変化していく過程にこそ、 本当の布の仕事がはじまると感じています。
衣・食・住のすべてに布は存在します。 しかし、その布がどのように生まれ、どんな実験を経て今の形になったのかを、 日常のなかで知る機会はほとんどありません。
そこで考えているのが、 制作の途中段階にある布たちを、 実際の生活環境に組み込む宿です。
色むらのある試作布。 強度テストを兼ねた未完成の織り。 藍の濃度や染め方を変えた複数のサンプル。
それらをカーテンにし、寝具にし、テーブルクロスにし、 暮らしてもらう。
この宿は、完成品を並べる展示空間ではなく、 布が使われながらデータを蓄積していく ような実験室です。

この構想は以前から心の中にありましたが、 伊豆に移住した当初は、まだかぜつちの活動を知っていただく機会も少なく、 具体的なイメージを描くことができませんでした。 各地の出店や展示を重ね、少しずつ名前を知っていただけるようになった今、 ようやく「いまならできるかもしれない」と思えるようになっています。
どの布が、どんな環境で、どのくらいの期間で、 どのように色が変わり、質感が変化するのか。 来訪者の滞在そのものが、次の制作のヒントになります。
言い換えれば、ここは 「布が完成していく現場に、泊まる宿」。
まだ構想段階ですが、 布を“眺めるもの”から“育てるもの”へと変えていくための、 新しい場をつくれたらと考えています。
